協会の記事ではありません。 吉水 秀樹 安養寺住職 のfbより紹介です。
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秋彼岸 十波羅蜜
2018年9月 安養寺住職 吉水秀樹
今年の秋彼岸は、原点に帰って「波羅蜜」について法話します。初期仏教を学んで、大乗の六波羅蜜の教えを、まったく新しい新鮮な角度から見ることができるようになりました。今回はその大筋をお話します。 そもそも、彼岸のことを「パーラミター」pāramitā と言います。これが「波羅蜜・波羅蜜多」と漢訳されました。所説ありますが、簡単に言うと。「波羅蜜」とは、人格の完成・人格の最上の状態・涅槃のことです。「パーラ」Pāraが、向こう岸という意味を持っているので、「彼岸」とか「到彼岸」とも訳せます。 彼岸とは涅槃のことで仏教の理想です。反対の此岸が、私たちが暮らす迷いの世界です。間にある川とは私たちの人生です。少し厳しいですが、この世で普通に社会生活をする、良き夫として仕事をし、良き妻として子どもを育て家事をする、善良に生活することは実は川の流れのままに流されることです。決して向こう岸には行けません。スポーツで世界王者になっても、あり余る富と権勢を得ても、それは川の流れの中の話し、輪廻の中の話しです。ですから、仏道を歩む者は、そのような世俗の価値観を離れて、川の流れに関係なく向こう岸に渡らなくてはなりません。その川を渡って彼岸に至る為に必要な十の項目を十波羅蜜(六波羅蜜)と言います。 多くの日本の仏教者は、六波羅蜜を努力目標とか、修行項目のようにとらえていると思います。これは間違いとは言えませんが、ともすれば、「それはできる。それはできない。」と言うような、表面的な理解に陥ってしまいます。 まず、肝心なことは、「波羅蜜とは性質のこと」と理解することです。性質ですから、できるできないに関わらず、そのような資質を自分で意識して育てるのです。なぜ、これが肝心なことなのかは、実際に仏道を歩む修行をすれば自ずと理解されます。このような性質が正しいヴィパッサナー冥想の実践で自然にあらわれてきて、修行を後押しする自分の性質として備わって行くからです。これがこころの成長、修行に違いありません。
それでは、項目について簡単に説明します。なお、この項目じたいに所説がありますので、参考程度として、詳しくは自分で調べてください。
波羅蜜 Pāramitā 彼岸 pāra
① 布施波羅蜜(dānaダーナ)=他人を助ける。他に優しくする性質。
② 持戒波羅蜜(sîlaシーラ)=道徳を守ること。道徳を守るという性質。
③ 忍辱波羅蜜(khantîカンティー)=あきらめない。やり遂げる性質。 何か目標に向かうと、必ずそれを妨げるものが現れます。たいては「欲」です。そのような「欲望」や「怒り」に負けずに、邪魔するものを振り払う性質です。そうして、目的に達するまで着々と進むのが次の精進波羅蜜と言えます。
④ 精進波羅蜜(viriyaヴィリヤ)=目的を達するまで着々と進む性質。
⑤ 捨波羅蜜・禅定波羅蜜(upekkhā)=感情に左右されない。こころの落ち着きこそが大切と理解する性質。
⑥ 智慧波羅蜜(paññāパンニャー)=真理を発見すること。 般若波羅蜜 知識とは似て非なる物です。知識は蓄えられますが、智慧は蓄えることも持つこともできません。知識は便利な道具ですが、知識がありのままの叡智を邪魔します。世界にある「美しさ」が見えないのは知識のせいです。知識は残忍さに対する感性を失わせます。知識をどんなに積み上げても、幸福には至ることができません。教育はともすると、知性を鋭くして抜け目のない、欲深い人間を育ててしまいます。
⑦ 離欲・厭離波羅蜜(nekkhamma nikāma-ya)=世俗の欲に未練を感じないこと。若い頃好きだった、バイクや車への関心は捨てました。趣味も私から離れて行きました。離欲が幸福と見えてきます。そのような性質です。
⑧ 真実波羅蜜(sacca)=いかなる場合でも嘘をつかない性質。仏道を歩むと、嘘がつけなくなります。嘘をつかないという努力目標ではなくて、嘘がつけなくなる性質を育てることです。
⑨ 確立・決定波羅蜜(adhṭṭhāna)=優柔不断を克服。何かを決められる性質。タバコを止めると決めたら止める。お酒を飲んだら、運転しないと決める。浮気をしていたが間違いと気づいたら止める。そのように軽やかに決めたら、あと戻りしない性質です。
⑩ 慈悲波羅蜜(mettāメッター)=生命を慈しむ。これは説明不要ですね。生きとし生けるものが幸せでありますようにと常に念じる、そのような性質を育てる。
お彼岸は豊かな四季をもった日本独特の仏教行事です。日本の仏教にもこのような素晴らしい、仏教週間があることを誇りに思います。
南無帰依三宝 吉水秀樹 拝
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