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仏教を知るキーワード【22】梵網経/沙門果経/大念処経(番外編)

更新日:2018年11月20日



仏教を知るキーワード【22】梵網経/沙門果経/大念処経(番外編)


番外編として、『上座仏教事典』に寄稿したパーリ経典(長部経典)の解説記事を掲載します。

 

梵網経 ぼんもうきょう パーリ語 Brahmajālasutta


長部の第1経。梵網(聖なる網)とは、腕利きの漁師が目の細かい網を小さな池に投じるように、世にある見解(宗教哲学)を一網打尽にするブッダの智慧を言う。ある外道の師弟が仏法僧の三宝を非難または賞賛して争論したことに因み、アンバラッティカー園林で説かれた。ブッダは比丘らに、三宝への非難や賞賛を聞いても怒ったり歓喜したりせず、正常な判断力を持って根拠なき非難を否定し、正しい賞賛を認めよと諭す。凡夫はごく些細な戒を見て如来を賞賛する。しかし甚深微妙で賢者が知る真理によってこそ、人々は如来を正しく賞賛できる。経の後半は、沙門・バラモンが説く諸々の見解(六十二見)の分析を通して、仏教の特質=因縁の法が明らかにされる。過去の考察を根拠に「我(魂)と世界のありよう」を説く18の見解、未来の考察を根拠に「死後のありよう」を説く44の見解がある。如来はそれぞれの見解により赴く境地を知り、もっと勝れた状態を知り、しかもそれに執着しない。また、過去と未来を考察して見解を起こす者は、皆この62見解によるしかないと言明される。世にある見解とは、因縁の法を「知らぬまま見ぬままに感受したことであり、渇愛に囚われた者たちの煩悶・動揺」に過ぎない。真理を知らぬ人々は、感官への接触を縁として汚れた見解を起こし、網中の魚の如く輪廻に浮沈し続ける。如来は、感受を知悉して執着せず、見解を寂滅し、輪廻を解脱している。「一切勝者」たるブッダがこの法門を説いた時、十の千世界が震動したという。[佐藤哲朗]


 

沙門果経 しゃもんかきょう パーリ語 Sāmaññaphalasutta


長部の第2経。沙門(出家者)であることの果報を示す。王舎城近郊のジーヴァカのマンゴー林で、マガダ国アジャータサットゥ(阿闍世)王に説かれた。ある満月の布薩日、侍医ジーヴァカの勧めでブッダと面会したアジャータサットゥ王は問いかける。俗人はおのおの、目に見える技能の報酬で自らを幸福にし、母父や妻子、友人や仲間を幸福にし、沙門バラモンに対して天界(幸福な死後)に資する布施を確立している。沙門についても、同じく現世における目に見える果報を示せるのかと。ブッダは(1)奴隷身分の者、あるいは(2)農夫身分の者が沙門となれば、王者の尊敬をも受けることを示す。さらに優れた果報は(3)在家者がブッダ(如来)のもと出家し、戒を守り、感官を護り、正念正知を備え、衣食に満足し、五(ご)蓋(がい)を除去し初禅に達すること。さらに(4)二禅。(5)三禅。(6)四禅。(7)観智。(8)意から成る身体の創造。(9)さまざまな神通。(10)天耳通。(11)他心智。(12)宿命智。(13)天眼智を挙げ、最上の沙門果は(14)漏尽智(解脱)と結論する。アジャータサットゥ王は三宝に帰依し、父王ビンビサーラを殺した罪を告白した。本経はいわゆる「王舎城の悲劇」の後日談でもある。アジャータサットゥ王が六師外道の所説を語る前半部は古代インドにおける沙門思想の概説となっている。[佐藤哲朗]

 

大念処経 だいねんじょきょう パーリ語 Mahāsatipaṭṭhānasuttanta


長部の第22経。クル国カンマーサダンマで比丘サンガに説かれた。長部で唯一、修道法を主題とした経であり、四念処の実践に関するさまざまな経説を網羅している。四念処とは身体(身)、感覚(受)、心、覚りに関わる真理(法)という4つの側面から念処(satipaṭṭhāna)即ち「気づきの確立」に至る修道であり、「涅槃を見るための一道」とされる。本経の総説にあたるフレーズ「ここに比丘は、身において身を観つづけ、熱心に、正知をそなえ、念をそなえ、世界における貪欲と憂いを除いて、住みます。諸々の受において……。諸々の心において……。諸々の法において……。」は、相応部大篇念処相応はじめ念処を説いた多数の経に共通する。身念処は出息・入息、威儀、正知、厭逆(不浄)、要素(四大)観察、九墓地(死体)。受念処は苦、楽、非苦非楽など9種の感覚。心念処は貪りのある心、怒りのある心、愚痴のある心など14種類の心。法念処は五(ご)蓋(がい)、 五蘊(ごうん)、十二処、 七覚支、 四諦に分けて説かれる。ブッダは結論として、四念処を熱心に7年ないし7日修習すれば現世で完全智(阿羅漢果)または不還果(ふげんか)に至ると説く。中部の第10経、大念処経(Mahāsatipaṭṭhānasutta)とほぼ同内容だが、長部では法念処の「四諦」の解説がより詳しい。中部の第118出入息念経、第119身至念経も関連が深い。[佐藤哲朗]

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